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東京高等裁判所 昭和56年(ラ)1002号 決定 1982年2月17日

抗告人

田中利正

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨は、千葉地方裁判所が同庁昭和五三年(ケ)第三二二号不動産競売事件につき昭和五六年一一月六日なした競落許可決定の取消を求めるというものであり、その理由は別紙のとおりである。

そこで検討すると、記録によれば、本件競売不動産のうちの建物(以下「本件建物」という。)は、(一)工場・共同住宅であつて、所有者丸泰食品株式会社においてその営業のため食料品の調理・加工を行う場所として使用されていたものであること、(二)競売申立人商工組合中央金庫の抵当権(順位一番及び二番)の設定登記については工場抵当法第三条の機械器具目録(以下「第三条目録」という。)が提出されていること、(三)その他の抵当権者の抵当権設定登記については第三条目録の提出がなされていないこと、(四)抗告人は順位四番の抵当権を尾田忠と共に準共用するものであること、(五)商工組合中央金庫は前記提出の第三条目録記載の機械器具も目的物件に含めて本件競売申立をしたこと、(六)原裁判所は昭和五三年一一月九日右機械器具も本件建物と一体のものとして競売開始決定をしたこと、(七)昭和五四年一一月一五日に日進オートマチックス株式会社から右機械器具のうちバスケットコンベア等については同社の所有である旨の申出がなされていること、(八)昭和五五年一二月一五日商工組合中央金庫は、同年一一月二五日に右機械器具全部について担保解除をしたので同機械器具の競売申立を取下げる旨の競売申立一部取下書を同裁判所に提出していること、(九)同裁判所は右取下書の提出があつた後は、競売目的物件から右機械器具を除いた上競売手続を進め、昭和五六年一一月六日本件建物を含む不動産全部について一括して株式会社サン・フーズに対し競落を許可する旨の決定をしたことが認められる。

右の事実からすると、当初競売目的物件に包含された前記機械器具について、その所有権の帰属の点から、本件建物に設定された抵当権の効力がこれに及ぶか否かについては問題があるともいえるが、仮にその機械器具に抵当権の効力が及んでいたとしても、第三条目録を提出した抵当権者である競売申立人が、右機械器具について担保の解除をなしたのであるから、その時以降は本件建物についての競売申立人の抵当権は機械器具に及ばなくなつたというべきである(工場抵当法にいう工場に属する土地建物について抵当権が設定され、第三条目録を提出してその登記がなされた後であつても、備付けの機械器具に及んでいる抵当権の効力を合意又は放棄により消滅させることは可能である。)。そうすると、競売申立人が右担保解除を理由として本件競売申立の一部を取下げたことにより、本件機械器具は競売手続の対象外となつたものと認められる。抗告人は、右競売申立の一部の取下げがなされても、工場抵当法第七条第一項の規定により機械器具についての競売開始決定の効力は依然として存続し、また抗告人の有する抵当権の効力は同法第二条第一項の規定により当然に右機械器具に及んでいるものであるから、機械器具を本件建物と一括して競売すべきであると主張するように解される。しかしながら、競売申立人の抵当権以外の抵当権については、その登記につき第三条目録の提出がなされていないことは前記のとおりであるから、それらの抵当権者は自己の抵当権の効力が機械器具に及ぶこと、したがつて本件競売開始決定の効力がなお機械器具に及ぶことを第三者に対抗することができないというべきである。そうすると、競売申立人が機械器具について担保解除をなして競売申立の一部を取下げた本件競売手続において、抗告人がその抵当権の効力が機械器具に及んでいることを根拠として、これを建物と一体のものとして競売すべきことを主張することはできないといわなければならない。

よつて、原裁判所が機械器具を除外して本件競売手続を進めたことには違法はなく、抗告人の本件抗告は理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(鰍澤健三 枇杷田泰助 佐藤邦夫)

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